八月の徳島。日が暮れると、街のどこにいても二拍子の囃子が聞こえてくる。三味線、太鼓、鉦、篠笛——「ぞめき」と呼ばれるその音に、体が勝手に動き出す。四日間で約十万人が踊り、約百三十万人が見る。日本最大級の盆踊り、阿波おどりである。
起源は、じつははっきりしない。1587年、蜂須賀家政の徳島城築城を祝って町人たちが踊ったという説は長く語られてきたが、いまでは俗説とされる。1578年に勝瑞城で風流踊りが催されたという記録、鎌倉時代の念仏踊りに連なる盆踊り由来説——どの説にも共通するのは、この踊りが誰かの記念碑としてではなく、名もない町人たちの熱のなかから生まれた、ということである。
踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々。
踊り手は「連」と呼ばれる集団で街へ出る。名門の有名連、会社の同僚と組む企業連、学生連——毎年延べ千もの連が徳島の夜を練り歩く。腰を落として力強く進む男踊り、編み笠に浴衣で高く優雅に舞う女踊り。同じ二拍子の上に、連ごとの型と誇りが乗っている。
そして阿波おどりには「にわか連」がある。予約も稽古もいらない。決められた集合場所へ行けば、その晩から誰でも踊り手だ。「見る阿呆」から「踊る阿呆」までの距離が、世界でいちばん短い祭りである。
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