八月の初め、日が落ちると青森の街の空気が変わる。囃子の太鼓と笛、そして「ラッセラー」の掛け声。針金と和紙で象られた高さ五メートルの武者が、内側から光を放ちながら大通りを進んでくる。東北の短い夏を焦がす六日間——青森ねぶた祭である。
起源は、じつは定かでない。奈良時代に大陸から伝わった七夕祭と、津軽に古くからあった精霊送りや虫送りの習俗が結びつき、灯籠を流して眠気を払う「眠り流し」となった——「ねぶた」の名は、この「眠り」が訛ったものと考えられている。労働の妨げになる眠気を水に流す素朴な習俗が、長い年月をかけて、光の彫刻が街を練る日本屈指の火祭りへと姿を変えた。1980年には国の重要無形民俗文化財に指定されている。
大型ねぶたは幅九メートル、高さ五メートル。「ねぶた師」と呼ばれる専門の作り手が、題材の決定から下絵、骨組み、紙貼り、墨で輪郭を描く書割、ろう引き、彩色までを指揮する。題材を決めてから完成まではおよそ一年、制作には延べ三百人が関わる。そうして生まれた約二十台が祭りの夜を進み、祭りが終われば、その多くは解体される。一度きりの夏のための、一年である。
ラッセラー、ラッセラー。
ねぶたの周りで飛び跳ねる「跳人」に、事前の登録も抽選もない。花笠に浴衣の正装を身につけて、出発を待つねぶたの列に加われば、その夜からあなたも祭りの一部になる。旅人にここまで開かれた大祭は、世界でも多くない。そして最終日、ねぶたは青森港の海に浮かび、約一万一千発の花火が夏の終わりを告げる。